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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)865号 判決 1986年1月30日

原告

出口弥生

被告

馬原利典

ほか四名

主文

一  被告馬原利典、同丸形隆雄は、原告に対し、各自、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年五月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告馬原利典、同丸形隆雄との間においては原告において生じた費用の五分の二を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告とその余の被告らとの間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し五〇〇〇万円およびこれに対する被告谷田悦子については昭和五九年五月一六日から、その余の被告らについてはいずれも同月一五日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  被告田中利明、同谷田悦子の本案前の答弁

本件訴を却下する。

(二)  被告ら全員の本案の答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱の宣言(但し被告谷田悦子関係)

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

原告は、昭和五七年八月一五日午後一一時四〇分頃、京都市右京区西院四条畑町一番地先交差点(嵐山祗園線)を、自動二輪車(以下原告車という。)に乗り西方から南方に向かいセンターライン付近に寄り徐行しながら右折進行中、折から右道路を東進中の被告馬原利典(以下被告馬原という。)の運転する普通乗用自動車(以下加害車という。)に衝突され、重度頭部外傷の傷害を負い、その結果自動車損害賠償保障法施行令二条の後遺障害別等級表一級に該当する後遺症を残した。

2  責任原因

(一) 被告馬原

被告馬原は、被告丸形隆雄(以下被告丸形という。)の所有する加害車を、酒気を帯びアルコールの影響で正常な運転ができない状態で制限最高速度時速四〇キロメートルのところを時速約六〇キロメートルで走行中、前記交差点を右折中の原告車を約四九・九メートル前方に認めながら、漫然と同一速度で進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、被告馬原には自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づく責任がある。

(二) 被告丸形

被告丸形は、自己所有の加害車を被告馬原に貸し与えて同被告に運転させ、また被告馬原が飲酒酩酊して加害車を運転することを知りながら、何ら制止することなく、自らも加害車に同乗し、その結果本件事故を発生させたものであるから、被告丸形には自動車損害賠償保障法三条、民法七一九条に基づく責任がある。

(三) 被告田中利明、同谷田厚子、同谷田悦子

被告田中利明(以下被告田中という。)、同谷田厚子(以下被告厚子という。)、同谷田悦子(以下被告悦子という。)は、本件事故当夜被告馬原と共に飲酒したうえ、同被告が飲酒酩酊して自動車を運転することを知りながら、何ら制止することなく、被告馬原に加害車を運転させ、自らも同乗し、その結果本件事故を発生させたものであるから被告田中、同厚子、同悦子にはいずれも民法七一九条に基づく責任がある。

3  損害

(一) 介護料

原告は、本件事故当時二〇歳であり、昭和五六年簡易生命表によると二〇歳の女性の平均余命は六〇年であり、右六〇年の新ホフマン係数(年別)は二七・三五四七であるところ、原告は生涯にわたり常時介護を要するものであり、その費用は少なくとも一日三〇〇〇円を下らない。

従つて、介護料に相当する損害は次のとおり二九九五万三三九六円となる。

三〇〇〇円×三六五日×二七・三五四七=二九九五万三三九六円

(二) 後遺症による逸失利益

昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計女子労働者二〇ないし二四歳の年間平均賃金は一八三万八八〇〇円であり、六七歳まで就労可能として、その就労可能年数四七年の新ホフマン係数(年別)は二三・八三二である。

従つて、後遺症による逸失利益は次のとおり四三八二万二二八一円となる。

一八三万八八〇〇円×二三・八三二=四三八二万二二八一円

(三) 後遺症慰謝料

原告は、生涯寝た切りの状態であり、父親は勤務をやめ両親で交替で看病に当つており、かつ本件事故が被告らの一方的過失に基づくものであることを考慮すれば、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰謝料は一六〇〇万円を下ることはない。

(四) 治療費 一八九万二二三二円

4  損害の填補

原告は、本件事故につき、自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万円を受領した。

5  よつて、原告は被告ら各自に対し前記損害残金七一六六万七九〇九円の内金五〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告谷田悦子につき昭和五九年五月一六日から、その余の被告らにつきいずれも同月一五日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅滞損害金の支払を求める。

二  被告田中、同悦子の本案前の主張

原告は自分の行為の結果を判断することのできる精神的能力(意志能力)を欠く状態にあり、訴訟能力を欠缺する者に当るから、有効適式な訴提起行為が存在せず、本訴は訴訟要件を欠く不適法なものである。

三  本案前の主張に対する原告の答弁

原告は会話をしたり、文字を書くことは困難であるが、あいうえおの五〇音を配列した文字盤を左手示指で指示することにより、自らの意志を表示することができ、本件訴提起においても右方法により原告訴訟代理人に父親を通じて訴訟委任したものであるから、本件訴提起行為は有効なものである。

四  請求原因に対する認否

(被告丸形)

請求原因1のうち原告主張の事故が発生したことは認めるが、傷害、後遺症の点は不知。

同2(二)のうち被告丸形所有の加害車を被告馬原に貸与したことは認める。

同3は否認する。

同4は認める。

(被告田中)

請求原因1のうち原告主張の日時場所において事故が発生したことは認めるが、その余は不知。

同2(三)は否認する。

被告馬原は、本件事故当時飲酒酩酊ではなく酒気帯び運転をしていたに過ぎず、しかも前方不注視を原因として自ら本件事故を招いたものである。のみならず被告田中は被告馬原が本件事故を発生させる程飲酒しているものとは全く知らず、かつたまたま被告馬原の運転する加害車に同乗したに過ぎないから、本件事故について共同不法行為責任を問われる筋合にはない。

同3は否認する。

同4は認める。

(被告厚子)

請求原因1のうち原告主張の日時場所で事故が発生したことは認めるが、事故の内容、原告の傷害、後遺症は不知。

なお原告車の運転者は原告の兄出口恭久であり、原告はこれに同乗していた者である。

同2(三)は否認する。

被告馬原は飲酒酩酊による注意力の鈍化により正常な運転ができない状態で操縦を誤つたものではなく前方注視を欠いた過失により自ら本件事故を招いたものである。また被告厚子は被告馬原らと飲食したが、同被告に自動車を運転することを知つて飲酒をすすめたこともなく、しかも同被告から誘われその言動がしつかりしておりそれほど飲酒をしているとも思われなかつたので、被告馬原の運転する加害車に同乗したに過ぎないから、同被告の運転を制止あるいは同乗を拒否しなかつたからといつて共同不法行為責任を負うべきいわれはない。

同3(一)のうち原告が本件事故当時二〇歳であつたこと、昭和五六年度簡易生命表による平均余命、右平均余命の年別新ホフマン係数は認め、その余は否認する。

同3(二)のうち昭和五六年賃金センサスによる平均賃金、六七歳まで就労可能としての新ホフマン係数は認め、その余は否認する。

同3(三)は否認する。

同3(四)は不知。

同4は認める。

(被告悦子)

請求原因1のうち原告主張の日時場所で事故が発生したことは認め、原告の傷害、後遺症は不知。

同2(三)は否認する。

本件事故は被告馬原が飲酒酪酊したことにより発生したものではなく同被告の単純な安全確認義務違反の過失に基づくものである。また被告悦子は被告馬原らと飲酒したが、同被告に加害車の運転を勧めたりそそのかしたりしたこともなく、却つて被告丸形の制止にも拘らず被告馬原が強引に自ら加害車の運転を始めたものであつて、しかも同被告が飲酒していないときと全く異ならない状態にあつたため、加害車に付和雷同的に同乗したに過ぎないのであるから、同被告の運転を制止せずに同乗したからといつて、共同不法行為者あるいは幣助者としての責任はない。

同3、4は不知。

五  被告丸形、同田中、同厚子、同悦子の抗弁

原告はヘルメツトをかぶらないで原告車を運転しもしくは原告車に同乗していたものであり、その結果重度頭部外傷を招いたのであるから、本件賠償額の算定に当つて右の過失を斟酌すべきである。

六  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  訴訟能力の有無

いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇、第一一号証(原告と被告馬原を除く被告らとの間では成立に争いがない。)及び当裁判所の京都南病院医師武澤信夫に対する調査嘱託の結果によれば、原告は重度頭部外傷(一次性脳幹部損傷)の傷害を受けたが、昭和五九年八月一三日当時四肢の運動機能及び日常動作については中等度の四肢麻痺が認められ(車椅子装作は可能で車椅子への移動は一部介助を要する。)、言語面では失語症は認められないものの高度の構音障害のため発語は殆ど困難であるが、基本的には正常に近い判断力、思考力を有し、言語面では他人の言葉、文字については正常に理解し、また他人との対話については文字盤その他で意思表示及び主張をすることは可能であることが認められ、右事実によれば原告は自分の行為の結果を判断することのできる精神的能力(意志能力)を十分具備していて訴訟能力が存在しているものといえるところ、弁論の全趣旨によると父出口竹夫を通じて本件訴訟の提起追行を原告訴訟代理人に委任したことが認められるので、原告の本件訴訟提起行為は有効適式なものというべきである。

二  本件事故の発生及び被告らの責任の成否

いずれも原告と被告馬原を除く被告らとの間では原本の存在とその成立に争いがなく、被告馬原との間では弁論の全趣旨により原本の存在と成立が認められる甲第一ないし第八号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四ないし第八号証(原告との間では成立に争いがない。)、証人出口恭久の証言、被告田中利明、同谷田厚子、同谷田悦子各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。

1  被告丸形は、自己所有の加害車に友人の被告馬原を同乗して、本件事故当日の昭和五七年八月一五日午後四時半頃知り合いの喜瀬井(谷田)玉枝が当時住んでいた京都市右京区西京極西川町所在の居宅に遊びに訪れ、加害車を同女方の裏通りに駐車し、同日午後六時頃から同所で右玉枝が提供したビールや食物を被告馬原、同じく来訪していた花岡某並びに右玉枝と共に飲食を始めた。

2  一方玉枝の娘である被告悦子は、別居して生活している姉被告厚子と国鉄京都駅で待ち合わせた後、被告悦子の男友達である被告田中の運転する普通乗用自動車に被告厚子と共に乗車して同日午後七時頃右玉枝方に帰宅した。

3  その後、右七名は右玉枝方で同女が提供したビール(生タル)、ウイスキー(G&G)、食物等を一緒に飲食したりしたが、被告田中、同厚子、同悦子は積極的に他に酒を勧めたりはしなかつた。なお被告田中はその間一旦右自動車を置きに自宅に帰つた後、再びこれに加わつた。そして同日午後一一時頃、被告馬原が桂川の奥の方にドライブに行くよう誘い、他の被告四名もこれに応じた。

4  被告馬原は、その頃までにビールをコツプに四、五杯、ウイスキーを水割でコツプに四、五杯程飲酒していたが、平素より酒は強い方であつて、当日の飲酒量や酔の状態からみて運転しても大丈夫と考え、被告丸形が一旦断つたにも拘らず同被告から加害車のエンジンキーを預り右玉枝方裏通りに駐車してあつた加害車を自ら運転することとし、他方他の被告らも被告馬原が飲酒していてもその言葉や歩行等が殆ど普通と変わらない状態であり格別酒に酔つた様子が窺われなかつたこともあつて、これに同乗することとした。

5  そして被告馬原は、他の被告を同乗させて加害車を運転して出発し、途中京都市右京区梅津林口町所在の当時の被告丸形の居宅に立寄つた後、同日午後一一時四〇分頃京都市右京区西院四条畑町一番地先の東西に通ずる四条通り東行第二車線上を時速約六〇キロメートル(なお最高制限速度時速四〇キロメートル)で走行中、同所先の交通整理の行われていない交差点を西方から南方に向け右折しようとしている原告運転の原告車(右折の指示器が点灯していた)が東行第一車線上から第二車線上に進路を変更しながら進行しているのを自車左前方約四九・九メートル地点付近に認めたが、なお距離もあり原告車が自車より先に右交差点を右折してしまうものと軽信し、後部座席の同乗者の話に気をとられ原告車の動静を十分注視せず同車との安全を確認しないで同一速度で同一進路を進行し、同車が右交差点を右折しようとしてセンターライン付近に寄り徐行しながら進行しているのを自車前方約一四・四メートル地点に接近してようやく発見し、危険を感じ直ちにハンドルを左に切つて衝突を回避しようとしたが及ばず、原告車の後部に自車右前部を衝突させて路上に転倒させ、原告に重度頭部外傷の傷害を負わせた。

6  本件事故直後の警察官による飲酒量の検知結果は呼気一リツトルにつき〇・三ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態にあり、その際被告馬原は酒臭が強く、顔色は赤く、目は充血していたものの、言語態度は普通で、歩行、直立能力は正常であつた。

また右玉枝方から本件事故現場までの距離は約六・六キロメートルあるが、その間被告馬原は速度がやや出ていた点を除けば蛇行運転や信号無視等をすることなく概ね不安なく運転しており、本件事故後も本件事故前後の状況等につき具体的に記憶している。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1 右事実に基づき考察するに、まず被告馬原は加害車の運転者であり、また右折準備態勢にある原告車を認めたのであるから直ちに減速して速度を調節しながら同車の動静を注視し、同車との安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、同車の動静を注視せず、同車との安全を確認しないまま漫然と同一速度で進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、自賠法三条ないし民法七〇九条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

2 次に被告丸形が加害車を所有し、これを被告馬原に貸与していたことは原告と被告丸形との間で争いがないから、被告丸形は自賠法三条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

3 そこで被告田中、同厚子、同悦子が共同不法行為者あるいは幇助者として民法七一九条の責任を負うか否かにつき検討する。

まず本件事故前に被告馬原はある程度飲酒をしているが、平素より酒は強い方であること、当日の飲酒量、運転前被告馬原の言動には殆ど普通と変つた点はなく、同被告は運転できない程酔つているとは感じていず、他の被告らも被告馬原が然程酔つているとは感じていないこと、本件事故前速度が最高制限速度を超えているものの概ね不安なく約六・六キロを走行していること、本件事故後被告馬原は本件事故前後の状況等を具体的に記憶しているうえ、言動は正常であつて、呼気検査の結果も呼気一リツトルにつき〇・三ミリグラムのアルコールを保有していたに過ぎないこと、その他本件事故の状況等の諸事実によると、本件事故の直接の原因は被告馬原の酒に酔い注意力が鈍化して正常な運転ができない状態によるものではなく、なお運転能力はあり自から前方注視を欠き安全運転義務違反をなしたことにあるものというべきである。なお被告田中、同厚子、同悦子は被告馬原と共に飲酒しながら同被告の加害車の運転を制止せずに同乗しているけれども、被告田中、同厚子、同悦子は被告馬原が自動車を運転することを知り又は知り得べき状況のもとで同被告と飲酒を共にしたものではなく、かつ酒を提供したりあるいは積極的に酒をすすめてもいないうえ、深夜遊びに出ること及び加害車を運転することは被告田中、同厚子、同悦子が促したりしたものではなく被告馬原の方から勧誘し能動的になしたものであつて、しかもその際右のとおり同被告において殆ど普通と変つたところはなく、被告田中、同厚子、同悦子が運転を危険と感じる程に被告馬原が酔つているとは窺われなかつたものである。

右のような諸事情のもとでは被告田中、同厚子、同悦子にはもともと被告馬原の自動車の運転を制止し、あるいは同乗を拒否する義務まであるとは未だ断じ難いのみならず、仮にそのような義務が認め得るとしても被告馬原において飲酒と直接の関係なく自らの前方不注視の過失により本件事故を発生せしめたものといえるから右義務を尽くさなかつたことと本件事故との間に因果関係を認めることは困難である。

そうすると被告田中、同厚子、同悦子には、単に飲酒、同乗等した事実のみで共同不法行為者、あるいは幇助者としての責任は認め難いものというべきである。

三  傷害、後遺症

前掲甲第八、第一〇、第一一号証、原告と被告馬原を除く被告らとの間では原本の存在と成立に争いがなく、被告馬原との間では弁論の全趣旨により原本の存在と成立が認められる甲第九号証、証人出口竹夫の証言及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故により重度頭部外傷(脳幹部損傷)の傷害を負い、京都南病院で本件事故日の翌日である昭和五七年八月一六日から昭和五九年八月一三日まで入院治療(リハビリテーシヨン等)を受け、当初中等度の意識障害、四肢強直性麻痺、不髄意運動、排尿障害、全面介助で部分的に経口摂取可能の状態にあつたが、退院時には前記一認定の状態にあつたこと、昭和五九年九月頃から京都府心身障害福祉センターで身体のリハビリテーシヨンや発声練習等の訓練を受けている(五年間の予定)が、現在も原告の前記のような状態はなお続いており、立つて歩くことは不可能で車椅子の生活であり、他人の介助を要し自力での生活は困難であることが認められる。

四  損害

1  治療費

原告と被告馬原を除く被告らとの間では成立に争いがなく、被告馬原との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証によると、原告は本件事故による受傷のため治療費(文書料を含む)として京都南病院に対し一八九万二二三二円を要したことが認められる。

2  介護料

前記三認定の事実、証人出口竹夫の証言及び弁論の全趣旨によると、原告は本件事故の習日以降昭和五九年八月頃までの間両親から交替のうえ継続して付添看護を受け、その後前記認定のとおり同年九月以降京都府心身障害福祉センターで訓練を受け(五年間の予定)、その間付添看護の必要はなくなつた(なお右センターの費用は身障者保険で賄われる。)が、いずれは退院しなければならず、そうなると近親者あるいは付添婦の介護が必要となつてくることが認められる。

右認定事実によると原告は生涯にわたり付添看護を必要とする状況が続くものと認められるところ、原告が本件事故当時後記認定のとおり二〇歳の女性で昭和五七年簡易生命表ではその平均余命は六〇年程度となつていることをも勘案すると、原告の介護に必要な労働を得る費用は本件事故の習日以降余命期間を通じ(但し右センター入院中の五年間を除く)一日当り三〇〇〇円と評価して算定するのが相当である。

そうすると本件事故の翌日以降昭和五九年八月まで(七四七日)の分は次のとおり二二四万一〇〇〇円となる(なお昭和五九年九月(満二二歳)以降の分は将来の付添費として判断する。)。

(算式)

三〇〇〇×七四七=二二四万一〇〇〇

また昭和六四年九月(満二七歳)以降の分について年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次のとおり二四六二万四三六〇円となる。

(算式)

三〇〇〇×三六五×(二六・八五二-四・三六四)=二四六二万四三六〇

3  逸失利益

前掲甲第八号証、証人出口恭久の証言及び弁論の全趣旨によると、原告は昭和三六年一一月七日生れの健康な女性で本件事故当時満二〇歳の光華女子大学の学生であつたことが認められる。

右事実によると原告は大学卒業後の満二二歳から満六七歳まで四五年間稼働可能であり、その間少なくも昭和五七年度賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計女子労働者学歴計のうち二〇ないし二四歳の平均月間給与額一二万七〇〇〇円、年間賞与その他特別給与額三九万七〇〇〇円(年間一九二万一〇〇〇円)の収入を得ることができたものと推認されるところ、前記認定の原告の傷害、後遺症の内容程度等に鑑みると、原告は本件事故後稼働能力を全く喪失したものと認めるのが相当であるから、右金額を基礎に新ホフマン方式により中間利息を控除して本件事故当時の逸失利益の価額を求めると、次のとおり四二二〇万六二九一円となる。

(算式)

一九二万一〇〇〇×(二三・八三二-一・八六一)=四二二〇万六二九一

4  慰謝料

前記認定の本件事故の態様、後遺症の内容程度その他諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は一六〇〇万円と認めるのが相当である。

5  過失相殺

被告丸形は本件事故当時原告がヘルメツトをかぶらず原告車に乗車していた旨主張するが、証人出口恭久、同出口竹夫の各証言によれば原告は本件事故当時ヘルメツトをかぶつて原告車を運転していたことが認められ(他にこれを左右するに足りる証拠はない。)、前記二認定の事実によるも他に原告に斟酌すべき過失は認め難い。

6  損害の填補

原告が自賠責保険から二〇〇〇万円の給付を受けたことは原告と被告丸形との間で争いがなく、被告馬原との間では弁論の全趣旨により認められるから、これを前記損害合計八六九六万三八八三円から控除すると損害残額は六六九六万三八八三円となる。

五  結論

よつて原告の本訴請求は被告馬原、同丸形各自に対し損害残額の内金五〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年五月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であり、その余の被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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